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55歳からの砂漠マラソン(1)あえて挑戦した過酷レース

フジテレビ報道局シニアコメンテーター鈴木款による挑戦の記録、第1回

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Jun 24, 2017 by Suzuki Makoto Reporter

3 Lines Summary

  • ・サハラ砂漠マラソンは7日間で250キロを走破する過酷レース
  • ・レース中選手は自給自足が義務付けられ、水以外のすべての荷物を背負って走る
  • ・今年の開催地はアフリカ南西部、ナミビア共和国のナミブ砂漠

序章

世界で最も過酷なマラソンの1つと言われている、サハラ砂漠マラソン。灼熱の太陽の下、7日間で250キロを走破するこのマラソンは、選手の体力と気力をとことんまで奪いつくす。レース4日目は、80キロを走るロングレースだった。前日までに走った距離はすでに120キロに達し、選手の疲労は極限に達している。

さらに最高気温は45度。多くの選手が吐き気やめまいに襲われ、もはや歩くことさえままならない。私も足を前に出すのがやっとだった。

「挑戦した者だけが見ることのできる風景がある」

この言葉に魅かれてエントリーしたサハラ砂漠マラソンだったが、もうろうとした意識の中で後悔の念が頭にもたげる。

「リタイヤか、前に進むか」
それでも私はゴールを目指して、前に進むことを選んだ。

今年4月30日から5月6日までの7日間の日程で行われた「サハラ砂漠マラソン」。全行程250キロに挑んだ私と仲間「チームジャパン」の奮闘を紹介したい。皆さんの走ることへの興味やきっかけとなればうれしいのだが…

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鈴木款(すずき まこと)/フジテレビ報道局シニアコメンテーター 1961年生まれの55歳。農林中央金庫を経てフジテレビでは「報道2001」ディレクター、ニューヨーク支局長、経済部長を歴任し現職。専門は経済、教育問題。昨年、編書「2020教育改革のキモ」(扶桑社)を出版

世界のアスリートが集まる過酷レース

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「砂漠で走るレースがあるのを知っていますか?」

いまから1年前、ある企業の社長が、自身が完走したサハラ砂漠マラソンについて、私にこう語り始めた。「このマラソンは、サハラ砂漠250kmを1週間かけて走ります。気温は40度を超えて、選手は自給自足、水以外の衣食住に関わるすべての荷物を背負って走るんです。荷物の重さは10kg以上になるし、毎日テント泊でシャワーも浴びられない。世界で最も過酷なレースの1つと言われています」

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「250キロも砂漠を走るって、意味が解らないな」苦笑しながらも興味を持った私は、早速この砂漠マラソンの詳細を調べた。

サハラ砂漠マラソンを運営するのは、香港に本拠地を置く「Racing The Planet」。2002年に設立され、サハラ砂漠、ゴビ砂漠、アタカマ砂漠、南極でマラソンレースを毎年開催している(南極は2年に1回)。

今年のサハラ砂漠レースは、4月30日から5月6日まで、アフリカ・ナミブ砂漠で行われる。レースには、世界中からアスリート、猛者や物好きが集まるが、過酷な自然環境の中、体調不良や怪我でレース続行を断念する者も多いという。完走率8割の、まさにサバイバルレースだ。

私がマラソンを走り始めたのは2011年、東日本大震災の年だった。当時経済記者として福島第一原発事故の取材に追われていた私は、生活が不規則となり、慢性的な腰痛に苦しんだ。寝ていても腰に痛みが走り、整体やマッサージでもよくならない。そんなとき、たまたまジムのトレーナーから「試しに走ってみませんか」と誘われ、走り始めるとしばらくして腰痛は嘘のように消えた。

さらに、震災や原発事故のニュースに日々接する中で、気分が塞ぐこともあったが、走ると不思議と気持ちが落ち着いた。その半年後、私は一念発起してフルマラソン(42.195km)に挑戦した。参加した湘南国際マラソンでは、震災復興の願いを込め、選手たちが「がんばろう日本」のステッカーをつけていた。

走りきってゴールすると、これまでにない充実感、達成感で胸がいっぱいになり、目の前に新しい風景が広がったように感じた。


「挑戦したものだけが見られる風景がある」


この言葉に出会った私は、さらに高みを見たくなり、ウルトラマラソン(100km)やトライアスロンのアイアンマンレース(水泳3・8km、バイク180km、ラン42.195km)にも次々チャレンジした。
そして、砂漠マラソンの話を聞いたちょうど1年前は、まさに「次の高み」を考えていたタイミングだった。

体力的に7日間で250kmを走り続けることはできるのか?そもそも参加に必要な装備は?長期休暇は取れるか?など、クリアするべきハードルは高そうだったが、私は迷うことなくサハラ砂漠マラソンにエントリーした。「順位や記録にこだわらず、完走を目指す」2016年5月、ここからまさに中年アスリートの「55歳からの砂漠マラソン」の挑戦が始まった。

「走れなければ歩けばいい」

エントリーすると、まずは250kmを走り続ける体力をつけるため、トレーニング計画をたてた。砂漠マラソンは舗装された道路を走るのではなく、足場の悪い砂やガレキの上を走る。その対策として、山道を走るトレイルランニングやロング走をトレーニングに取り入れた。

さらに厄介なのは10kg以上になる重い荷物だ。これまで重い荷物を背負って走ったことはなかったので、重さに身体を慣らすトレーニングとして、米袋や鉄アレイ、水ボトルを詰込んだリュックを背負って(15kg程度になる)、週末は湘南海岸や自宅近くの駒沢公園を走った。


しかし、いざやり始めると、荷物が肩に食い込み、激痛が走る。さらにトレーニングの翌朝は、身体全体にずっしりと疲労が残り、「本番ではこんなことを1週間も続けるのか」と暗澹とした気持ちになった。

また、問題となるのが、走行スピードだった。通常私は1キロ6分前後のスピードで走るのだが、荷物を背負って砂浜を走ると砂に足がめり込んで思うように前に進まない。自分では走っているつもりでいても、1キロ10分はかかってしまい、普段歩いているペースと変わらない。制限時間は1キロ15分程度に設定されているとはいえ、どんなトラブルが起こるかもしれず、このスピードでは制限時間内に走れるか不安だ。


「早歩きでいいんじゃないですか?」サハラ砂漠に向けて相談役になってもらったプロランニングコーチの金哲彦さんは、こんなアドバイスをくれた。

「とまらずに歩き続ければゴールにつきます。できるだけ脚に負担をかけないように、体幹を使うことを意識して早歩きを心がけてください。」


金さんの「走れなければ歩けばいい」というこの言葉で、「目指すのは完走、タイムではない」と割り切りが生まれ、気持ちが楽になった。

しかし、トレーニングの中で唯一できなかったことがあった。それは暑さ対策だ。40度を超える中でのトレーニングなど、そもそも日本では不可能だが、ぶっつけ本番となったことが、後々私を苦しめることになった。

「荷物を1グラムでも軽く!」

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準備はトレーニングだけでない。

レース中選手は自給自足が義務付けられ、水以外のすべての荷物を背負って走らなければいけない。現地に持参する装備は、運営側からリストが事前に渡される。寝袋、医療器具、ヘッドライト、ダウンジャケット、ウインドブレーカーなど、細かい規格まで指定され、そろえるのは大変だ。しかし、リスト通りの装備を持参しないと、レースには出られない。

特に重要なのは、食料だ。「食べられるかどうかが成否のカギです」。砂漠マラソンを教えてくれた会社社長は、こう力説した。「私は暑さにやられて、一時食欲が全くなくなりました。でも、食べなければ体が動かなくなるので、必死に食べました。」食料は1日当たり最低2000kcalを摂取することが義務付けられているが、これは大人が日常生活に必要な最低カロリーだ。毎日走り続けるにはこの倍くらいのカロリー摂取が必要になる。

しかし、食料を増やせば、当然荷物が重くなる。選手はいかに軽量で、カロリーの高い食料を選ぶかが勝負の分かれ目となる。毎日米を食べたい典型的な日本人の私は、主食をアルファ米にした。さらに塩分を効率的に取るためフリーズドライの味噌汁やカレーを用意した(朝晩は運営側からお湯がもらえる)。走っている間は、ゼリーやスポーツバー、ナッツなどで栄養補給する。

現地で口に合わないものを食べるのは辛いので、出発前に試食して何を持っていくのか決めた。また、レース中は朝昼晩食べるものを考えるのが、だんだん面倒になってくると聞いたので、この日は何を食べるか事前に決めて、日付をつけた小袋に食料を分けた。かさばるものは包装を小さく切って1グラムでも軽くした。

「よくそんなに長く会社を休めましたね?」とよく聞かれる。今回ラッキーだったのは、日程がゴールデンウィークに重なっていることだった。報道は祝日であろうと週末であろうと関係のない職場だが、解説委員の仕事は自分である程度仕事をコントロールできる。会社では「サハラ砂漠を走ってくるので休みます」というと、苦笑されながらも休暇取得がなんとかできた。

さらによく聞かれるのが、「家族はどう思っているのですか?」だ。もともと妻はマラソンやトライアスロンに関心が薄い。当初は健康のためならばと応援してくれていたが、過酷路線に行く私にだんだん呆れ顔となり、砂漠マラソンの話をしたときは、さすがに怒り顔になった。

息子3人に伝えたときの反応は、大学4年生の長男は呆れる、中学2年生の三男は心配するで、唯一理解を示したのは陸上をやっている高校3年生の次男だった。しかし走り終わった今、息子たちも「自分もやってみたい」と言っていて、いつか親子で走るのもいいなと考えている。

そしてナミブ砂漠へ

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今年のサハラ砂漠マラソンが行われたのは、アフリカ南西部に位置するナミビア共和国のナミブ砂漠だ。本来サハラとは言えないのだが、治安上の理由で開催場所をこれまでのエジプトからナミビアに移動した。イスラム国のテロは、こんなところにまで影響を与えている。

ナミビアは日本からの直行便がなく、南アフリカ経由で入るため、移動にほぼ1日半を要する。4月27日朝に羽田を出発し、ナミブ砂漠の玄関口ウォルビズベイ空港に着いたのは28日午後。飛行機のタラップを降りると、灼熱の太陽と広大な砂漠が待っていた。

この暑さの中でこんなところを走ると思うと、鬱々としてきた。砂漠の拠点となる街、スワコプムントは、ヨーロッパから観光客が訪れる美しいリゾート地だ。ナミビアでは、治安の心配は杞憂だった。


1年間の準備を経て、いよいよ砂漠マラソンのスタートラインに到着だ。

「55歳からの砂漠マラソン」について

この手記のタイトル「55歳からの〜」は、私がフルマラソン挑戦を始めるきっかけとなった本のタイトル「55歳からのフルマラソン」から拝借した。


この本の著者は、弊社の「みんなのニュース」でコメンテーターもしている、作家・江上剛さんだ。江上さんがフルマラソンに初めて挑戦したのは50代半ば。体力的にはすでにピークアウト、どんなトレーニングをやっても劇的に筋力や瞬発力がつくことはない年齢だ。

しかし当時50歳になろうとしていた私は、この本から50代でもフルマラソンを完走できることを教わった。この手記を書くことを決めたとき、タイトルには「55歳からの砂漠マラソン」が頭に浮かんだのだ。

寄稿文 江上剛さん

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江上剛さん/作家。1954年兵庫県生まれ。早稲田大学卒業後、旧第一勧銀に入行。広報部次長時代に総会屋事件に遭遇。03年に退行後、作家として本格デビュー。経済・金融小説のほか、マラソン関連の著書もあり。2015年からフジテレビ「みんなのニュース」でコメンテーター。私は経済部長時代に知り合い、金融マンの先輩としてアドバイスを頂いている一方、マラソンではライバル関係。(文責:鈴木)

砂漠マラソンを完走した鈴木さんが私から刺激を受けてマラソンを始めたと知って大いに光栄に思いました。

実は、私が走り始めたのは56歳なのです。本のタイトルで「55歳から」としました。あの時、私は地獄を見ていました。死にたい、死んだ方がマシかとまで思っていました。日本振興銀行というベンチャー銀行の社長として破綻処理に直面していたのです。

この銀行に関係するようになった経緯などは割愛しますが、私としては社会貢献の積りで社外役員として経営に協力し、結局、社長としてその最後を見届けるという運命に直面してしまいました。銀行は日本初のペイオフが適用され、多くの方々に迷惑をおかけしましたが、私は、連日、マスコミに追われ、謝罪会見や金融庁、取引先、従業員の対応に奔走しました。その間、親しい社外役員が自殺するという悲劇もありました。

私は自分の悲運に嘆いていました。そんな時、マラソンに出会ったのです。走りませんがと近所の人に誘われ、最初は断りました。当然です。メタボですし、マラソンなんてしたことが無かったからです。でも何かを変えたかったのでしょう。私は、近所の人たちと一緒に練習に参加しました。

おしゃべりしながら走るのです。すると、いろいろな話が耳に入ってきました。夫への不満、子供の病気、姑への怒りなどなど。その時、私は、気付いたのです。私は自分だけが苦労していると思っているけど、誰もがそれぞれ悩みを持っているのだと。悩みを相対化できたのです。すると走ることで自分の中の悪いガスが抜け出て、悩みが晴れ、悲運を嘆く気持ちも薄れてきたのです。

こうして私はマラソンに魅了されました。鈴木さんもいろいろな人生上の悩みや不満などを砂漠マラソンで背負った荷物以上に重く感じておられると思います。しかしただひたすら走ることでその重さがいつしか軽くなることを実感されたに違いありません。これからも走り続けてください。砂漠マラソン、完走おめでとうございます。

【1】 55歳からの砂漠マラソン(1)あえて挑戦した過酷レース(この記事)

【2】 55歳からの砂漠マラソン(2)地獄へようこそ!

【3】 55歳からの砂漠マラソン(3)摂氏45度の灼熱に倒れる

【4】 55歳からの砂漠マラソン(4)世界には無限の楽しみがある

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