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救急病棟を走り回る、元気なあざだらけの少女ジル

<NY市営病院から見えるアメリカの現状>DVと児童虐待の相関性(※タイトル画像はイメージ)

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Aug 05, 2017 by Oriza Watanabe Commentator

3 Lines Summary

  • ・アメリカでは20分に1人がDVを受けている
  • ・DVがある家庭では、子供の虐待リスクが高い
  • ・児童保護サービス(CPS)の介入にも関わらず、ジルのような子供は後を絶たない

およそ1年前の夏のとある日、ジル(4歳女児・仮名)は母方のおばさんに連れられて小児救急病棟にやってきた。

病院着に着替えたジルの両腕、両足、顔には無数のあざとすり傷があった。その痛々しい姿はスタッフ一同が一瞬、息を呑むほどだった。

それでもジルは元気に病室をかけ回り、医療器具を興味深げに触ったりしている。こんな時、子供の驚異的なresiliency(跳ね返す力)にはいつも驚かされると同時にわずかな希望も与えられる。

おばさんによると、ジルのお母さんのボーイフレンド(実の父親ではない)によってジルが日頃から暴力を受け、結果、体中があざだらけなのだという。

ジルだけではなく、お母さんもそのボーイフレンドによって日常的な暴行を受け、怪我が絶えないのだという。いわゆるDomestic Violence(DV)。

しかし、おばさんによると、ジルのお母さんは完全なDenial (受け入れがたい状況を認めようとしない防御反応)の状態にいるため、自身への暴力はおろか、我が子への身体的な虐待も認めようとしていないのだという。

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実の母親がジルの虐待の事実を認めない…

アメリカにおいてDVは深刻な社会問題、公衆衛生問題として扱われている。およそ20分に1人がDVの被害を受け、女性の3人に1人、男性の4人に1人が人生で一度はDVの経験があるという統計もある。

また、DVがある家庭で生活する子供は、虐待を受けるリスクが高いとされている。ジルの家族はまさにこのパターンにぴったりとハマっている。

そもそもなぜおばさんがジルを小児救急へ連れてくるに至ったのか。

きっかけはおばさんのいとこが、たまたま前の週に遊びに行った際、ボーイフレンドによる暴力を目撃したことだった。いとこは、その場では何も手出しができなかったものの、お母さんとジル、2歳の双子の兄弟(ボーイフレンドの実子)の安否を心配しておばさんに報告。深刻に感じたおばさんはすぐに警察に連絡し、警察官同伴でジルの家を訪れたのだ。

そこで、ジルの身体中のあざが確認され、ボーイフレンドは即逮捕された。お母さんはすぐにジルを病院へ連れていくよう命じられたのだが、この期に及んで、「転んだだけよ」、「どこかにぶつけたんでしょう」と虐待の事実を断固として認めず、「他の子供の面倒があるから」と言って、病院へ行くことを拒否したという。その結果、おばさんが連れてくるに至ったのだ。

情報収集と虐待の有無の調査

小児救急病棟で働くソーシャルワーカーの主な仕事の一つに、児童虐待のアセスメントがある。

ジルのような身体的虐待のほか、精神的虐待、性虐待、そしてネグレクトを含む虐待を受けていると疑われている子供(患者)が訪れた場合、子供だけからでなく、病院に子供を連れてきた親、親戚、世話人などから情報を収集し、虐待の有無を調査する。

インタビューによる情報収集のほか、不審なあざやミミズ腫れ 、傷ついた性器など、明らかな身体的証拠も判断材料とし、医師と連携しながら、虐待の有無を判断する。

ジルのような明らかな身体的証拠がある場合はまさに「ドンピシャ」なのだが、多くの場合は明らかな身体的証拠を伴わない。そのような場合には口頭による情報収集が大きな役割を担う。子供は大人の発言や質問の仕方に影響を大きく受けるため、できる限り正確な情報を得るよう、細心の注意を払わなくてはならない。

ジルのケースでは、まず家の全体像を把握するために、おばさんからの情報収集を行う。この日は、おばさんが話している内容によって、ジル自身の証言が影響を受けないよう、インタビューは別室で行われた。その間は医師によってジルの身体検査が行われ、からだ中のケガが写真で記録された。

おばさんによれば、36歳のお母さんにはジルと2歳の双子ほか、親戚と暮らしている20歳、16歳、8歳の双子がいるという。

お母さんにはヘロイン中毒の過去があり、現在はmethadone (ヘロイン中毒治療薬)投薬を受けている。10代での妊娠、薬物中毒、無職、DVに幼児虐待。私が職場で見てきた、貧困に苦しむ家族の多くが抱える問題を、ジルのお母さんもまた、抱えていた。

ジルの家族も生活保護に頼ったギリギリのラインで生活していた。ボーイフレンドはまともな職につかないまま、気ままな生活を送り、ことあるごとにお母さんとジルに暴力を振るっていた。

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ジルは次々と虐待の様子を証言

その昔はDVがほとんど問題視されなかったアメリカ社会だが、1970年代の女性解放運動から大きく転換した。1994 年に当時のビル・クリントン大統領によって制定されたViolence Against Women Acts(女性に対する暴力防止法、のちに2000年、2005年、2013年に改正)は、警察、司法機関の対応の改善、より厳しい罰則の制定、被害者の保護と援助を義務付けた。このことは、DVに対する理解を立法府が深めたことを表した。

DVへの理解が深まることによって、児童虐待との相関関係も明らかになっていった。それは、児童保護サービスにおけるDVの扱い方を大きく変えた。子供のいる家庭でDVが報告された場合には、虐待の有無が確認できなくとも、児童保護サービスが介入するべきだという動きが強まったのだ。

アメリカの児童保護サービス(Child Protective Service=CPS)は、各行政に付随し、児童虐待に関わるケースを一任して取り扱う。それぞれの行政でCPSの名称は異なっており、NY市ではAdministration for Children's Services(ACS) と呼ばれる。

CPSは警察同様に多くの権限を有し、警察と連携しながら子供達の安全を確保している。

アメリカでは、医師や歯科医、学校の先生、ソーシャルワーカー、保育士など、子供と接する機会のある職務についている者は、Mandated Reporter と呼ばれ、CPSへの報告義務を課せられている。虐待やDVが疑われるにも関わらず通報しなかった場合には罰せられることもある。

おばさんに続き、ジルから情報収集を行う。日常的な暴力にさらされた子供は、引きこもりがちで、口数が少なく、大人と目も合わせたがらないことが多いのだが、ジルは全く虐待されたことを感じさせないような天真爛漫ぶりで、次から次へと虐待の様子を証言していった。

ボーイフレンドによって、毎日ベルトやハンガー、拳で殴られ、おばさんのいとこが訪れていた時には、首を絞められたことも証言した。お母さんが暴力を振るわれているのを2日前に目撃したことも、しっかりと語ってくれた。

おばさんとジル、両方の証言を受け、虐待の事実が確認された時点で、私はState Central RegistryというNY州の一括通報システムへすぐさま通報を行った。法律では通報から24時間以内に管轄のCPSが対応することになっている。実際には数時間のうちにCPSのケースワーカーと呼ばれる担当者が指名され、即座に調査が始まる。

この日も通報から数時間後には担当のケースワーカーと連絡が取れ、ジルの退院後、安全に戻れる場所がどこなのかを協議した。今回はボーイフレンドが逮捕されたため、自宅に戻っても大丈夫だということで、この日はお母さんの元へ帰ることが許可された。

釈放されたボーイフレンドがまた自宅に戻ってくることを避けるため、ケースワーカーは翌日、お母さんとともに裁判所へと出向き、Order of Protectionと呼ばれる接近禁止命令を発令してもらう。

この命令がある以上、ボーイフレンドはジルほか、お母さん、兄弟に近づくことは許されず、近づいた場合には逮捕されることになる。

DVだけでなく虐待も認めようとしなかったお母さんも、子供たちを取り上げられる可能性があると知って、ボーイフレンドと連絡を取らないことを約束した。

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再び暴力を受けたジルは救急病棟へ

人間は、長年培ってきた「生き方」を簡単に変えることは難しい。約束からおよそ半年後、ジルのお母さんも、暴力に支配された生き方を変えることができず、ボーイフレンドをこっそり家の中に入れてしまい、ジルが再度暴力を受ける事態となった。

再度あざだらけで救急病棟へ運ばれたジル。CPSはお母さんが信頼おける親ではないと判断し、即時にジルと双子の兄弟の養育権を奪い、里親制度へと送り込んだ。

ジルは選択肢なくお母さんの元に生まれ、貧困に苦しみ、DVにさらされ、ひどい虐待を受けた。そしてさらに里親制度へ送りこまれることになり、まったく面識がない他人と生活することになった。

差し迫った危険はなくなったものの、慣れ親しんだ環境から突如引き離されたジルが経験したトラウマは計り知れない。

DVにさらされた子供は、のちに身体の健康、薬物中毒、メンタルヘルスなどの問題を抱える確率が圧倒的に高くなることが明らかにされている。虐待を受けた子供はこれらの問題に加え、脳の発達への影響、認識機能障害、発達障害などの問題も抱えやすいことがわかっている。

貧困やDVにより幼くしてその人生を翻弄されたジル。彼女のその後の人生が一体どうなっていくのか、考え出すとただただ心が痛む。一方で行政ができること、自分ができること、その限界とも葛藤する日々は続く。

【1】 自閉症を抱えたボブとその家族。救急病棟で見た彼らの苦悩

【2】 救急病棟を走り回る、元気なあざだらけの少女ジル(この記事)

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渡邉オリザ
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自閉症を抱えたボブとその家族。救急病棟で見た彼らの苦悩
Jul 15, 2017
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Oriza Watanabe
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