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美しく仕立てられた“物語”じゃない。これが がん患者の「リアル」

特集「今こそ身に付けたい『患者力』」第5回

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Sep 08, 2017 by editors room Reporter

3 Lines Summary

  • ・メディアで報じられる「がん」のイメージが強く、患者のリアルはその陰に隠れがちだ
  • ・高額の治療費のため仕事を続けられるなら続けたほうがいい
  • ・患者には患者を縛る2つの「呪い」と呼ぶべき既存の価値観や思い込みやがある

見えづらい、がん患者の「リアル」

がんは、もはや「不治の病」ではなくなりつつある。治療成績は着実に向上し、その5年生存率は69.4%に至る(※1)。さらにデータを追えば、2016年の国立がん研究センターの集計(※2)では、早期の「ステージ1」での5年生存率は90.1%、「ステージ2」では76.3%だ。ちなみにリンパ節に転移する「ステージ3」は46.0%と半数を割り込み、他臓器転移などがある進行がんの「ステージ4」では17.4%とされ、改めて早期発見の大切さがわかる。

これが、数字の示すがん患者のリアルだ。しかしニュースサイトとして自戒を込めて言えば、メディアで取り上げられがちなのは、がんで死に至った人物のストーリーの方。衝撃の大きさは耳目を集め、一方のリアルはその陰に隠れて我々のがんのイメージはなかなか更新されない。

自身のがん闘病記を赤裸々に綴った『彼女失格-恋してるだとかガンだとか-』(幻冬舎)の著者、松さや香さんは語る。

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「最初に書籍の話があった某出版社の担当者に『死んでない人の闘病記は売れないから』って言われました。当事者としてはつらいけど、事実だと思います。読者は別に、人の死を好んで読みたいとかじゃなく、ただ『ああ、かわいそうだったな。私は自分のいまいる環境を大切にしよう』って感じている。そのニーズを汲むことが数を生むから編集者は応えにいっちゃう。悪循環だと思います」

治療のためには当然、お金が必要

松さんが著書に綴ったのは「生きてる方の人生」だ。11年前、29歳の時に乳がんに罹患。左胸に合計6センチ大の腫瘍が2つ見つかり「ステージ2b」の診断を受けた。松さんは情報収集を続けるなか「お金と性生活のことはいくら調べても出版されされていない。こんなに大変なのに、なんで誰も書かないんだろうって」。自身のリアルな体験をブログで公表しはじめたのだ。

「いざ自分が患者になってみるとお金はカツカツ。年金暮らしの親に頼るほど子どもでもなく。『高額医療費制度(※3)があるのに何言ってんの?』って言われることもあったけど、月額約8万円以上かかった分の医療費を負担してくれる…って、東京で一人暮らしする会社員の女性が生活費以外で自由に使える8万円をキープすることを毎月続けるの、どれだけ大変だと思ってんの!? って」

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治療費を自分で稼ぐため、松さんは当時働いていた出版社での勤務を続けた。抗がん剤の副作用で髪がすべて抜けてもウィッグを身につけ、オフィスに向かった。

「当時の上司は女性で理解がある人で、『とにかく絶対やめないで』って『不安に思うかもしれないけど、何かできることがあると思うから一緒に考えよう』って言ってくれたんですね」。そして、その上司は松さんに「さや香自身は、この先どうしたいの?」と正面から問うた。

「がんって言われたばかりだし、仕事も一人前にできるわけじゃないし、聞かれても…。でも答えなきゃと思ったときに、これは診察と同じだと気付きました。こういう診断結果でこういう手術だけど、あなたはそれでいい? って、最終的に決めるのは自分なんですよね。

当時29歳で同世代の女性達とみんなと一緒で日々遊んで、『早く結婚したいな~』って、ぼんやり生きてきました。そんな日々から突然引っ張り出されて『どうしたいの?』。突然訪れた命の選択。命をつなぐためには金が必要で、金を稼ぐためには仕事が必要。その仕事を、どうしようと思っているのか?」

そこで松さんは、今後の治療と体調を予測しつつ、負担の少ない仕事内容を自ら組み立て、報告した。「これまでの人生では相手の欲しがる答えばかりを口にして、それが楽だった」という松さんが誰にも遠慮せず自分のために出した答えだ。上司はすぐに「わかった」と快諾したという。ここに松さんの「患者力」を見ることができるだろう。

その後、治療と仕事との両立が始まり、困難続きで音を上げそうになった時も、その上司は、松さんの将来を思って時に厳しく、サポートを続けた。

「実際、治療がひと段落したときに『もう十分、力が付いてるから』と上の役職に昇格させてくれました。上司は、私をがん患者じゃなく『いち人間』として見ていてくれた。がん治療のサポートはするけど、いちメンバーとしてみんなと同じように成長していってほしいと平等に接してくれた。それが大きかった。本当に感謝しています」

実際、主治医からも「会社辞めないでね、って。そういう病気じゃないから、とあっさり言われたんですよ」という。

患者を縛る「呪い」

現代は、年齢性別、結婚、子どもの有無などあらゆる事柄で既存の価値観や思い込み、いわば「呪い」でがんじがらめになるケースがあるが、それは患者も同様だという。

その1つはまだまだ根強い「お医者さま信仰」で、医師の指示には必ず従うべきという思い込みや、著名なブランド病院こそ偉いという価値観。しかし、松さんは某有名病院の対応のモラルの低さに、転院を決めた経験がある。長い治療を共にするパートナーになるからこそ、感じた違和感を無視してはいけない。

そしてもう1つの「呪い」が、患者にまつわる「偏ったイメージ」だ。
「乳がん患者一つとっても、いろんなケースがある。いろんな人の様々な事例を知らないと、自分や他人のケースも受け入れられない」と松さんは言う。例えば、松さんが治療をしていた頃、末期の乳がんに罹患した若い女性が題材のノンフィクション映画が流行した。その反響が大きかったこともあり、「年頃も近いからあんな感じになっちゃうのかな、と思った」と語る松さんに、「あれは非常に、まれな進行がんだから。みんながみんな、ああじゃないから」と医師はきっぱり語ったという。

そして以前松さんが出会った、24歳の乳がん患者のケース。当時、彼女は先進医療だった「オンコタイプDX」という遺伝子検査により抗がん剤が効かないタイプと判明して抗がん剤を使用しなかったが、それを知った患者会の他のメンバーたちは「抗がん剤をしてないなら、私たちの仲間だと認められない」。そんな内容のことを言い放った。彼女は号泣しながら語ったという。

他にも、患者同士で自分の病期、ステージを「競い合う」ような、曰く「劣等感プロレス」もあったそうだ。「乳がんと同じくくりに入ったら、みんな同じレベルで悲しかったりつらかったりしないとイヤだって、そんな同病同士の不毛な いさかいは実際に起こっています。同じだよね~っていう共感じゃなくて、私はこうだったし、あなたはこうだった、お互い今こうして外を出歩けて人生が続いてよかったね、って。そこを労い合えなかったら、患者会もピンクリボン運動もアウトですよね」

病を負ってなお、そんな出来事に見舞われることもある不条理。しかし、これも1つのリアル。美しく仕立てられた物語にはない出来事だろう。これを事実として知っておけば、自分がその立場になったときに、上手くかわせるかもしれない。それも「患者力」の一つだと言えるだろう。

「私、がんになったら、もう人生が180度変わってしまう! と思っていたけど、意外と、私は私のままだった。仕事は続くし、お金稼ぐのは大変だし、彼氏は浮気するし、も~! って。

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ドラマや映画って、ラストは本当にカタルシスがあって、かっこいい終わり方をするけど、患者の日常はドラマチックではないしエンディングもない。退院するときに華々しく病院から見送られるわけでもないし、治療すら、普通の日常です。
治療中もその後も同じように、ときに嫌なことがあったり、たまに恥をかいたり、もちろん喜びもあったりしながら、ただ連綿と日常が続いていくだけなんです」


取材・文=高木沙織
写真=鍵岡龍門




(プロフィール)
■松さや香
文筆家。1977年東京都生まれ。日台ハーフ。29歳のとき、若年性乳がんに罹患。治療中に編集者、国際線客室乗務員を経験し、現在寛解。ハースト婦人画報社ELLE JAPON公式サイト『ELLE ONLINE』でブログを連載中。著書に『彼女失格-恋してるだとかガンだとか-』(幻冬舎刊)。10月に待望の新刊書籍を出版予定。

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■注釈
※1
全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査〈2017年2月集計〉による
http://www.zengankyo.ncc.go.jp/etc/index.html

※2
国立がん研究センター・プレスリリース「全がん協加盟がん専門診療施設の診断治療症例について 10年生存率初集計」
https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2016/01/20160120_01.html

※3 同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される制度。一般的な20代〜30代女性にあてはまる標準報酬月額28万円〜50万円の方の自己負担限度額は約8万円となる
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3030/r150

今こそ身に付けたい「患者力」
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美しく仕立てられた“物語”じゃない。これが がん患者の「リアル」(この記事)

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