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「被災者」というレッテルに苦しめられた。
『しんさいニート』の著者が明かす、311以降の日々

特集「被災地、東北の今」第3回

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Mar 07, 2017 by editors room Reporter

3 Lines Summary

  • ・“被災者然”として生きていかなければならないという苦しさ
  • ・震災を機によみがえったトラウマ克服のため、半生をマンガに
  • ・「死」を見つめ「今の生命」を燃やすように生きていく

東日本大震災は、大勢の人たちの「人生」を変えた。家や仕事を失った人、故郷を離れざるを得なかった人、復興のために生きる選択をした人…。『しんさいニート』の著者であるカトーコーキさんも、大きく人生が変わった人のひとりだ。

震災当時、カトーさんは福島県南相馬市で陶芸家として陶器屋を開業していた。しかし、あの日を境にカトーさんの人生は一変する。避難を余儀なくされた故郷、失ってしまった自分の店、被災者として感じる“負い目”、そして浮かび上がってくる過去のトラウマ…。そんな自身の体験を克服するために、カトーさんはコミックエッセイ『しんさいニート』を描いた。あれから6年。カトーさんの“今”を追った。

“被災者然”としていなければいけない、という思い込み

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『しんさいニート』は避難生活だけを描いた作品ではない。前半ではカトーさんやその家族が福島を離れ、北海道の親戚の元へと移住するさまが描かれている。しかし、そこから物語はカトーさんの内面へとフォーカスされる。カトーさんを苦しめたもの。それはなにもかもを失ってしまい、周囲の人たちの手助けがなくては生きていけない自分に対する劣等感だ。

「(移住した)函館市の方々が本当に良くしてくれて。市の職員の方はもちろんですし、それ以外でも、たとえば企業の方が被災者に食糧を送ってくれたりとか、気分転換にと無料のバスツアーを組んでくださったりとか。本当にありがたかったんですけど、その一方で、“被災者然”としていなければいけないという想いを抱いてしまったんです。いろんな方に助けてもらって生活しているんだから、楽しんじゃいけない。娯楽なんてもってのほかですから、趣味だった音楽も聴けなくなってしまいました。誰からなにを言われたわけじゃないんですけど、自分で自分が許せなかったんです」

さらに追い打ちをかけたのが、幼少期に父親から受けた“箱詰め教育”だった。完璧な良い子でいることを求められ、そこから少しでも逸脱しようものなら烈火の如く怒られる。やがてそれは、カトーさんに“お前はダメな人間である”という苦しみの種を植え付けた。それが震災によって発芽してしまったのだ。なにをやってもうまくいかない。震災後、手に職をつけるために美容師学校に通い、なんとか就職するも、そこでもうまくやっていけない。そんな日々を過ごし、カトーさんは“うつ病”を発症してしまう。

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そんな自身のトラウマを克服するためにはじめたのが、その半生をカタチにすることだった。webで毎週更新することを自らに課し、見事描き上げた自伝的コミックエッセイは700ページにも及ぶ大作に。そして、それを元にできあがったのが『しんさいニート』だった。

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自宅に引きこもり、マンガを描き続けた

「最後まで描き上げた時は、『いやぁ、やり遂げたな』って思いましたね。人によっては、自分の人生をマンガにして発表するなんてくだらないことだと感じると思うんですけど、僕にとっては非常に大きいことで。こんな僕でもなにかを成し遂げることができるんだって自信につながったと思います」

思いもよらなかった「マンガ家」デビュー

こうしてカトーさんは陶芸家からマンガ家へと転身を遂げた。しかし、そもそも「マンガ家になりたい」という想いはなかったという。

「正直、マンガ家になりたいとは考えたこともなくて。マンガの描き方もわからなかったですし。だけど、『自分の人生をアップデートしたい』という想いもあって、そのためにできることがマンガを描くことだったんです」

現在のカトーさんの肩書は「マンガ家」。とはいえ、それ以外にも音楽制作やTシャツのデザインなど、その活動は多岐にわたる。そこに共通するのは、“なにかを表現したい”という想いだ。

「自分のことをアウトプットするのって、めちゃくちゃ怖いんです。特に僕なんて、自分の人生を赤裸々に描きましたから。だけど、失敗してもいい、恥ずかしくてもいい、バカにされてもいいって思ってるんです。これは震災前の自分だったら絶対に思えなかったこと。音楽活動やアパレルのデザインも、震災を通じて自分自身を見つめ直したから挑戦できていることですね」

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バンドのボーカルとしても活動するカトーさん

職業だけではなく、人生観も一変した

“あの日”を境に、人生がガラリと変わったカトーさん。一変したのは職業だけではなく、人生観についても同様だという。

「震災を機に決定づけられたんですけど、僕らはあくまでも動物であって、自然の中で生かされているんですよね。科学や医療が発達して人間の寿命はどんどん長くなっている中で、“死”が日常から遠ざけられていますけど、やはり生命は有限なんですよ。だからこそ、生きている間に幸せになるためにどんなことをするべきなのか、それを大切にしたいなと考えるようになりました」

生と死は隣り合わせである。それをまじまじと実感したカトーさん。表現者として精力的に活動しているその原点には、そんな想いがあるのだ。そして、それを突き詰めていくと「いつ死んでも良いと思えるような生き方をする」という想いに結びつく。

「死を見つめるということは決してネガティブなことではなくて、今生きている生命を燃やすということ。そのためにポジティブに生きていくことだと思うんです。そういう意味では、自分の本が出せたことで、いつ死んでも良いという満足感を得られました。ただ、今はまだまだやりたいことがあります。一作目はコミックエッセイでしたけど、次は一般的なマンガに挑戦しようと思っていて。人間の動物としての尊厳をテーマにしたSFを描きたいな、と。この『しんさいニート』を出していただいたことで、マンガ家としての切符をいただけたと思うんですよね。だから、そのチャンスを活かして、新たな作品作りにチャレンジするのが目下の目標です」

そう語るカトーさんの顔に悲壮感はない。震災がカトーさんのパンドラの箱を開くきっかけとなったのは事実。しかし、そこで奮起したカトーさんは、第2の人生を切り開いた。おそらく、被災地にも同様の人たちはいるだろう。我々にできることは、彼らを可哀想と思うことではなく、その活動を応援し見つめることなのではないだろうか。

■カトーコーキさん
福島県南相馬市出身。2011年3月11日、東日本大震災・福島第一原発事故により、故郷を離れ移住。自身の被災、虐待、うつ、ニート体験を描いた『しんさいニート』(イースト・プレス)にてマンガ家デビューを果たし、バンド・エレクションズのボーカルも務める。また、2016年4月より、福島県郡山市のコミュニティーFMココラジで放送開始となった、『エレクションズの今夜もギリギリチョップ』で、ラジオパーソナリティーとしても活動中。

カトーコーキさんオフィシャルサイト

取材・文=五十嵐 大

【特集「被災地、東北の今」】

第1回  自分の無力さを痛感した――。被災地出身者が語る、あの日

第2回  「原発事故よ、ありがとう」震災から6年、福島の高校生がセリフに込めた深い意味

第3回  「被災者」というレッテルに苦しめられた。『しんさいニート』の著者が明かす、311以降の日々(この記事)

第4回  「原発避難いじめ」はなぜ起こってしまうのか?その原因は、大人にあった

第5回  数十秒で死ぬ場所? 福島第一原発内のローソンは「生茶」も「うまい棒」も買える

第6回  震災とVRの意外な関係性。福島第一原発の中に入ってみると…。

第7回  隣町のコンビニ時給は1300円。避難指示解除でもハッピーエンドではない被災地の課題

第8回  知られざる、「原発20キロ圏内」での暮らし。そこで奮起する人々の姿

第9回  福島は、原発は、将来どうなる?「あの人」の意見が聞きたい。

第10回  『原発に最も近い映画館』が教えてくれた価値

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ホウドウキョク編集部
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